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2024/09/04

クリニックはスタッフに退職金を支給すべき?

1.はじめに

「スタッフが退職したら、退職金を支払わないといけないのでしょうか?」
「退職金制度は導入しないといけないのでしょうか?」

顧問先様からこのような質問を受けることがあります。特に新規で開業された先生などはどのようにすべきか迷われるかもしれません。本日は、医療機関での退職金制度についてお伝えいたします。

2.退職金制度は必要?

退職金制度は企業の義務ではありませんので、必ずしも導入が必要なものではありません。また、退職金制度がなければ退職金の支払い義務も生じません(※ただし、慣習的に従業員に退職金を支給してきた場合は、実質的に制度があるのと同様にみなされる場合があります)

それなのに退職金制度を導入している企業が少なくないのはなぜでしょう?メリットとデメリットを検討してみます。


3.企業側のメリット

採用時に有利

以前に比べると、積極的に退職金制度を採用している企業は減少しているように感じます。企業に余裕がないなどの理由もあるかもしれませんが、それ以外に、将来のことよりも今給与としてどれだけ還元してあげるか、が重視されているということもあると思われます。しかしながら裏を返せば、他の医院が退職金制度を設けないのであれば、自院で制度を設けることで、求職者の目に留まる可能性は高くなります。求人票の差別化です。また、制度は導入していないけど、積極的に退職金の支給を行っている医院であれば、導入することで福利厚生が可視化されるわけですから、新たなコストの発生がなくともメリットを生み出せます。

従業員の定着

多くの退職金制度で、月給と在籍年数を関連付けて支給額を定めています。また、単純に基準となる金額に年数を掛けるだけでなく、それ以外の係数を用いて、在籍年数が長くなるほど係数が上昇するという制度にすることで、従業員が長く働くモチベーションにつながります。

例)退職金額=月給✕在籍年数✕α
  ※α=在籍年数3年の場合は0.12、4年で0.13、5年で0.15、6年で0.18・・・など

従業員の退職に伴う人員の入れ替えの際には、求人費用の支払い、引き継ぎ期間の人件費の上昇、一時的な生産性の低下など多くの痛みを伴いますので、従業員が長く働いてくれることは、退職金制度導入の大きなメリットと言えます。

4.従業員側のメリット

老後資金の確保

クリニックの従業員さんで、老後資金に不安がないという方は少数派ではないでしょうか。どんな方でも、定年まで勤め上げて余生を安心して暮らすために、少しでも退職金をもらえるのは嬉しいはずです。

退職所得控除の活用

退職金は税制上優遇されています。少なくとも、在籍年数✕40万円までは必ず非課税となります。正社員で働いてれいば、給与から所得税が引かれる人がほとんどですから、一定の範囲内の金額であれば、給与よりも退職金でもらった方が、従業員さんの手残りは増えることになります。

5.企業側のデメリット

コストがかかる

制度がなければ支払う必要のない退職金を、制度を導入して支払えば、当然それはプラスαのコストになります。60歳が定年で、30年働いたら200万円の退職金を支給する制度がある場合、30歳の方を雇用した時点で200万円の将来的なコストが確定することになります。(あくまで雇用時には途中で退職する前提はありませんので・・)

経営状況に関係なく支払い義務が生じる

制度を導入した時と、実際に従業員が退職する時で、経営状況が変化していることは当然考えられます。制度を導入した時は業績も好調で全く問題のない制度と思えても、将来的に近隣に競合が増えて医院の収入が減る可能性もあります。また、制度が奏功して従業員が長く働いてくれた場合、先生ご自身が高齢になって閉院するというタイミングで、一人当たり数百万円という退職金を、全従業員に同時に支給する可能性もあります。

退職金積立の効果

上記のメリット・デメリットを検証した結果、退職金制度を導入したとします。経費として計上できるタイミングはいつでしょうか。
特段の対策を行わず、スタッフが退職したタイミングで退職金を支払う場合には、その時が経費計上のタイミングとなります。またこの場合は、医院がコツコツと蓄積してきた利益が支払いの原資となります。

しかしながら先述したように、退職金の支払いが特定の次期に集中した場合などは、支払原資に窮する可能性もありますし、利益を蓄積するには納税を伴いますので、効率も良くありません。そこで、支払原資の確保と退職金関連経費の前倒し計上というメリットを取れるのが、以下のような方法です。

・生命保険の活用
・中退共への加入
・企業年金(確定拠出年金や確定給付年金)

それぞれ色々な特徴がありますが、ここでは割愛します。大まかに申し上げますと、月々退職金のための積み立てを行い、将来的な支払いの負担やリスクを減らすと同時に、何もしなければスタッフに退職金を支払うまで経費計上できなかったものを、目先で計上できるというのが一番のメリットとなります。(※経費化については支払った全額を計上できるもの、支払った金額の一部を計上できるものなど、制度によって違いがあります)

6.最後に

医療業界の人材不足は深刻さを増し、採用戦略の構築や離職率の低下はこれからの医院経営の大きな課題となっています。もちろん退職金制度だけが唯一の答えではありませんが、検討してみるのも良いのではないでしょうか。


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