医療法人設立の考え方
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1.はじめに
クリニックを開業する場合、多くの先生が個人事業として診療所を開設します。そして開業後一定の年数が経ちクリニックの規模が大きくなってくると、多くの先生は個人事業としての診療所経営から、医療法人での法人経営へと組織の変更を行います。
クリニック開業後、経営が安定してくるタイミングで医療法人成りを行うのはなぜでしょうか?今回は税の目線から見た医療法人設立の考え方について取り上げたいと思います。
2.個人事業での最高所得税率は55%を超える
所得税法では所得の種類を10種に区分し、各所得区分に応じて所得金額の計算方法を制定しています。個人事業としてのクリニック経営は事業所得に区分され、収入金額から必要経費を差し引いた金額が課税の対象となります。課税所得には5%~45%の累進税率が課税されます。
課税所得が1,800万円を超えた部分は40%、4,000万円を超えた部分は45%の所得税率となっており、実務上はこれに10%の住民税と復興税がプラスされますので、課税所得が1,800万円超過部分については50%以上が税金として課税されることになります。つまり個人事業で診療所経営を続けると、今後1,800万円超の増益部分についてずっと手残りが半分以下となってしまうのです。
3.課税所得1,800万円は余裕があるように感じるが…
課税所得で1,800万円と聞くと大変余裕のある金額に感じるかもしれません。しかし、クリニックを開業する場合多くの先生は、不動産を取得し、内装工事を行い、多額の医療機器を購入されています。近年では建築価格の高騰もあり、開業資金が億単位となることも珍しく有りません。
仮に開業資金1億5千万円を15年返済の融資を利用して開業した場合、年間1千万円の元本の返済にプラスして利息の支払いをすることになります。またご子息が医学部へ進学される場合学費の負担も必要になってきます。1,800万円を超えた部分で手取りが半分以下になりながら、資金を捻出して行くのは決して容易な作業ではありません。
4.医療法人の実効税率は27%程度
個人から医療法人へ法人成するメリットは多数ありますが、そのうちの一つに課税所得に対する税率差があげられます。医療法人の場合、保険診療を中心としたクリニックでは実効税率は最高でも27%程度となります。個人の場合、翌年以後のクリニックへの投資に回したい資金についても課税所得1,800万円超部分は半分以上が税金となりますので、この点については医療法人成の大きなメリットと言えます。
また、個人事業では個人事業主に対して退職金を支給することができません。医療法人では、普段の生活に必要な金額を役員報酬として設定し、老後の生活に必要な金額を法人内に積み立てることができます。退職金は実効税率が最高でも25%程度となりますので、老後の生活資金を考える上でも有利となります。加えて法人になると生命保険を活用しやすくなりますので、保障を取りながらのプランニングと相性がよく、プランニングの幅が大きく広がります。
5.医療法人成のメリット、デメリット
一般に医療法人のデメリットとして設立費用や維持費用等のコストの増加、社会保険料の負担増加、出資持分を持てない、等が挙げられます。
維持コストの増加とは法人税均等割という税金や提出書類作成の事務費用等です。社会保険料の負担増加とは、健康保険や厚生年金が強制加入になることです。
これらは雇用面で有利になったり、保障が手厚くなると言う側面がありますので一概にコストと割り切ることはできませんが、医療法人の設立シミュレーションを行う上では必ず勘案しておく必要があります。勘案の結果、増加コスト以上のメリットはある場合に医療法人成の選択を検討しても良いと言えます。
出資持分については、実務上の経験値から言うと、理事構成や退職金のプランニング次第で、ほとんどの場合デメリットとなることはありません。社会保険料の強制加入についても同じことが言えます。
6.最後に
医療法人設立は、設立後の運用によってそのメリット・デメリットが大きく変わってきます。中には設立時にプランニングを誤ると、生涯に渡り影響してしまうようなケースもございます。基本的な考え方を中心に抑えつつ、実行時には経験豊富な税務担当者と年密に打合せされることをおすすめします。
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