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2025/09/08

本当にあった、クリニックの親子承継で困った話

1.はじめに

年齢を重ね、若い時は普通にできていたことにもたついてしまったり、体力的にしんどいと感じるようになってきたり。
そういったことを感じることが増えるにつれ、そろそろ一線を退こうかなという思いが強まっていく。そんな先生もいらっしゃるかもしれません。
今回は、親子承継をお考えの方にぜひ一読していただきたい、実際の承継でのトラブル事例についてご紹介いたします。

2.事例紹介

事例1 スケジュールが曖昧

先代のA先生には持病があり、体調が良いときは問題ないのですが、体調が悪い時に診療を行うのがだんだんと負担になってきました。息子のB先生は他院で勤務医として10年近く働いており、そろそろA先生が開設するAクリニックを引き継ぐのに十分な実力が備わってきたと思われるところです。B先生に承継を打診したところ快諾してもらえたため、1年後に現職を退職し、その後しばらくA先生とB先生でいっしょに診療を行い、ある程度の引き継ぎが完了したところでB先生にクリニックを譲る予定でした。

予定通りB先生は勤務先の医院を退職し、Aクリニックで働き始めました。
B先生は患者さんへの対応は全く問題なかったのですが、お酒が好きなためか、毎日診療開始時間ギリギリに出勤してきます。毎日誰よりも早く出勤して、診療の準備をしっかり行い、またその必要性をスタッフに背中で教えてきたA先生には、そのことが信じられません。B先生としても早く起きられない自身の生活習慣のことは認識しており、それらの準備は前日のうちに残業してある程度終わらせていたのですが、A先生はそのことを知りませんでした。B先生は数ヶ月ほどでA先生は医院を譲る予定でしたが、上記の点で不安があったこと、A先生の体調が最近は安定していることから、承継のタイミングを先延ばしすることにしました。

B先生がAクリニックに戻ってから1年以上が経ちますが、未だに承継する気配はありません。
しびれを切らしたB先生はA先生にどのように考えているのかを尋ねますが、A先生は「お前にはまだ早い」と言うばかりです。B先生は以前の勤務先より給与も下がっていますが、承継までの一時的なことと思い受入れていました。いつまで経っても承継する気配がないことへの不満が溜まり、いまやB先生は自身で新規に開業することも含めて今後のことを考えています。

いつ経営を譲るのか、事前に承継のゴールを明確にして、そこから逆算して詳細な引き継ぎのスケジュールを決め、書面で作成しておくことが重要です。また、親から見れば子どもはいつまでも頼りなく見えるかもしれませんが、後継者には後継者のスキルや診療スタイルがあります。信じてあげることで開花する才能ですので、承継時は温かく見守ってあげる勇気が大事とも言えます。

事例2 高額な役員借入金がある

先日、先代のC先生から息子であるD先生に医院を継承し、医療法人の理事長と管理者も変更の手続きが完了しました。C先生が被保険者となっていた、医療法人の生命保険を解約したことで解約返戻金が入金となり、その資金をもとにC先生への退職金を支給し、銀行借入金も全くない状態で承継は無事に完了したものと思われていました。

ある時、D先生は顧問税理士との打ち合わせを行っていてこのようなことを言われました。
「C先生からの役員借入金が医療法人にかなり残っていますが、これはどのように精算しますか?」
医療法人に借金はないという認識だったD先生は驚いてC先生に確認したところ、
「それは患者が少なくて資金繰りが厳しい時に僕が医療法人に貸したお金だから、ある時払いで良いから返してね」

C先生から引き継いだクリニックには築年数なりの傷みがあり、何より昔ながらの建物の雰囲気が若いD先生にミスマッチのように感じられます。承継して順調ならば数年のうちに銀行からお金を借りてテコ入れを行うつもりだったのですが、C先生への返済も行うとなると今後の資金繰りが心配になってきました。C先生が今まで資金繰りをなんとかしてくれたおかげで今があるのは間違いないのですが、過去の赤字から生じた負債を自分が返済するのかと、D先生は何とも言えないモヤモヤした気持ちになりました。

医療法人の経営状況について、損益だけでなく貸借対照表も含めて、事前に後継者が把握しておくことが不可欠です。きちんと理解をするために顧問税理士にも協力を仰ぐと良いでしょう。

事例3 いつまで続ける?

F先生は父親のE先生からE歯科クリニックを承継しました。承継したのは8年前です。
承継したので当然診療の中心はF先生ですが、E先生は今も毎日午前中3時間は診療を行っています。
F先生がE歯科クリニックを承継してから患者は順調に増え続け、今の悩みは「予約枠が埋まってしまっており、既存患者の次回予約が間延びしてしまうこと、新規患者の予約を受けづらいこと」です。F先生はできるだけ診療を効率的に行うために、様々なオペレーションの見直しを行い、今までよりも診療時間を短縮した上で、できるだけ質を落とさない医療サービスを提供できるよう奮闘しています。そこでネックになるのがE先生です。

F先生が継承した後も、E先生目当てで以前から通ってもらっている患者さんはまだまだいます。大変ありがたいことなのですが、E先生の診療はとても丁寧で対話も大事にし、時には談笑すら聞こえてきます。医院全体が効率化を図る中で、まるでE先生の担当ユニットだけ別の歯科医院のようにゆっくりと時間が流れるようです。F先生が効率化を図るのは利益のためではなく、Eクリニックを支持してくれるたくさんの患者のニーズに応えるためなので、本音としてはE先生にも協力を仰ぎたいところです。

ただ、長年のスタイルがある高齢の先生にはスピードアップを求めることも診療フローを変えてもらうことも酷だと思い、切り出せずにいます。E先生の担当ユニットまでF先生がカバーした方が効率良く診療が行えますが、「明日から来ないで」なんてことは実の親でもある先代にとても言えません。急患からの問い合わせに苦慮する受付スタッフの対応を見ながら、F先生は何とも言えない気持ちになりました。

先代からのサポートは最初はありがたいものですが、やがて後継者の経営方針とズレが生じることも少なくありません。「いつまで」「どのような形で」診療に関わってもらうのか、承継時にきちんと話し合っておくべきでしょう。

事例4 役員構成と理事報酬

H先生は父親のG先生より医療法人Gクリニックを承継しました。伴走期間も終了し、来月からはH先生単独で経営を行っていくことになります。
経理関係はこれまでH先生のお母さんが担当していましたが、今後はその業務もH先生が担当します。G先生からの診療業務の引き継ぎはほとんど完了しているため、あとはお母さんからの経理の引き継ぎさえ行えば準備は万全です。

ある日、H先生はお母さんから給与計算の引き継ぎを受けていました。
そこで驚いたのが、一般企業に務めるH先生のお姉さんに医療法人から給与が支払われていたのです。また、改めて確認すると、お姉さんは医療法人の理事にもなっていました。H先生はこれらの事実をこの時初めて知ったのですが、よくよく思い返してみると実家を離れたお姉さんがたまに戻ってきては、経営に口出しをしていくのはこういうことだったのかと、初めて合点がいきました。

お姉さんはお姉さんなりに、理事としての立場を全うするためにあれこれアドバイスしてくれていると思うのですが、いかんせん本職は一般企業の事務員です。経営者とは目線が違うためか的外れだったり机上の空論だったりすることがほとんどです。H先生はいつもそのことを悩ましく思っていました。

これから新体制でやっていくH先生にとっては新しい船出は不安ばかりです。
経営面での不安を減らすために、自身の給与も低く設定しました。お姉さんからのアドバイス自体はありがたいものの、お金を払ってまで継続していくことにH先生は疑問を感じています。このことをG先生に相談しましたが、「H先生をサポートしてくれるありがたい存在だから」と流されてしまいました。
どうやらお姉さんの本業の方の給与はあまり良くないらしく、ご両親としては生活をサポートする意味も込めて給与を払っていたようです。H先生としては医療法人という財産だけではなく、思わぬ負債も引き継でしまった気持ちです。

ご家族への役員報酬の打ち切りは後継者からは切り出しにくいものです。承継前に先代の方から整理してあげるのが理想でしょう。


3.最後に

親子承継は第三者への承継と異なり、承継全体に関する契約書が存在しないことも少なくありません。
親子承継で「いつでも話せる」という安心感が、かえって重要な事柄の確認を曖昧にし、のちに認識の食い違いから大きなトラブルに発展することもあります。親子間で契約書を交わすのは仰々しく感じるかもしれませんが、承継のスケジュール、退職金の額、先代の関与の仕方といった重要な項目については、文書に残し「見える化」しておくことが、円満な承継の鍵となるでしょう。

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